実行事例

2021.08.06

倫理と哲学から
ドーピング問題について
根本から考える

GOAL

GOAL

4.7

TARGET

2030年までに、持続可能な開発のための教育及び持続可能なライフスタイル、人権、男女の平等、平和及び非暴力的文化の推進、グローバル・シチズンシップ、文化多様性と文化の持続可能な開発への貢献の理解の教育を通して、全ての学習者が、持続可能な開発を促進するために必要な知識及び技能を習得できるようにする。

GOAL

GOAL

16.b

TARGET

持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。

文献・引用等:竹村瑞穂(2014)競技スポーツにおける身体的エンハンスメントに関する倫理学的研究 より「よい」身体をめぐって(体育学研究論文)、竹村瑞穂(2019) ロシアのドーピング問題【識者評論】必要な倫理の基盤確立 ドーピングは必然的帰結か (新聞/一般記事)

01

57年ぶりの東京五輪。
国旗を持たない選手団
ROC。

57年ぶりの東京開催、
新型コロナ禍で新様式のなか盛り上がりを見せるオリンピック。
日本選手も好ペースでメダル獲得を見せ
多くの国民に感動をもたらしています。

世界各国からも、選手団が来日しそれぞれの競技で活躍をみせていますが
前回とは違う枠組みで今回大会に臨む選手たちがいます。

「ROC」(ロシアオリンピック選手団)

開会式で国旗を振ることができない。表彰台で国歌が流れない。
様々な制約のなかで参加をきめたロシア選手たちが
個人資格のもとに所属する団体です。

そもそもなぜ彼らはロシアの国旗を背負って参加できなかったのか。

それは2014年頃に発覚したドーピングに関する
国、関係団体の組織的な不正に起因しています。

その内容は、薬物尿検査における検体の
すり替え、破棄を行なったとするもので、
国家ぐるみでドーピング摂取、データ改ざんを
行なっていたとする報告もあがっています。

2020年12月、スポーツ仲裁裁判所は
ロシアの国際大会出場禁止(2年間)を発表しました。
この制約は2022年に中国・北京で開かれる
冬季オリンピックにも適用される予定です。
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02

遺伝子研究と
ドーピングの発展
揺らぐ「悪」の定義。

ロシアへの処分内容には様々な意見がありますが、
スポーツの持つ「公正な」素晴らしさに影を落とすものであり、
改めて国力の象徴、ビジネスの中枢のひとつといえるスポーツの側面、
大きな力の「あり方」を考えさせるものです。

検査等の取り締まりや厳しい罰則に対して、
ドーピング技術の側にも著しい発展があり、
従前からある薬物投与の形ではなく
「遺伝子ドーピング」と言われる手法も懸念されています。
これは、パフォーマンス向上を意図して遺伝子を編集・改良するものです。
特に生殖系列細胞が対象の場合は、
遺伝子情報を引き継ぐ子孫を含めて、広域の影響が懸念されています。

複雑化するドーピング手法、技術のなかで
「公正な競争」という大義名分のもとに取り締まりや処罰を
行なうことの「根拠」や「説得力」は限界を迎えています。

また、「個人の身体における自由」「競技スポーツの発展」をベースにした
自然欲求をもとにドーピングの容認を主張する研究者も存在します。

ドーピング実施者のパターンとして
アスリートが自らの意志で行うほかに、本人が無自覚に行うものや
組織関係者、その他接触者による例も報告されています。

まとめると「なにが、どのような点で悪なのか」
判断が難しい実状がスポーツ界に存在しており、
競技者を含むひとりひとりがルールに基づく行動制限を行うだけでなく、
今一度、「なぜドーピングが否定されるのか」
生命倫理や哲学の視点も踏まえて、
根本的に見つめなおす節目にきていると考えられます。

このドーピングを含むエンハンスメントの問題は、
一個人の身体や人間性をめぐる哲学的課題と
競技スポーツの在り様に関する課題が混在している状況にあると言えます。

※エンハンスメント
 高める、強化する
 生命倫理学においては、病気治療のための医療技術を転用し、
 健康な身体や精神の機能
向上に用いる意で使われる
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03

哲学から見る
エンハンスメントの
良さと善さ。

スポーツ科学部 竹村 瑞穂 准教授は、
身体能力向上の合理的な目的達成という意味での「良さ」と
それが道徳的に認められるかどうかという意味での「善さ」という
概念区分を用いてドーピングを含む身体的エンハンスメントの問題を
哲学の視点から考察し、研究を進めています。

前者の「良さ」は、合理的な目的・手段関係において達成されるところです。
一方、後者の「善さ」に関して、
哲学者カントは「経験的な目的を前提としない
純粋な、実践的な理性使用があるのではないか」と考えました。
すなわち、競技スポーツにおける勝利という1つの目的に対し、
自己の身体や生命が手段としてのみ成り下がるような行為は
「善い」行為とは言えないということです。

副作用の高い薬物摂取や人間の種概念を揺るがす操作技術が
勝利という目的に対する手段としてのみ存在したとき、
薬物ドーピングあるいは遺伝子ドーピングは
制限の対象になると結論づけることができます。
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04

求められる
教育と秩序。
スポーツ・インテグリティ。

インテグリティ
それは「高潔さ・品位」を意味し、
スポーツ・インテグリティは
スポーツが様々な脅威により欠けるところなく、
価値ある高潔な状態であることを指します。


・競技内外で常に紳士的な姿勢を保つこと
・様々な誘惑を断つ意思の強さを持つこと
・主体的に善悪の棲み分けをしうる判断力をもつこと
これらは競技技術の向上とともに教育をもって培うべきものであり、
スポーツを「みる」「支える」立場においても重要なものです。

スポーツに関わる人々、団体、組織、国が一体となって
スポーツ・インテグリティに対する理解と知識を深め、
守り継ぎながら、健全なスポーツ社会を形成していくことが
公正な努力と競争を促し、スポーツが持つ本来の魅力創出
につながるといえます。

国や企業等もそういった取組みを理解し、支援していくことが
結果に至るプロセスにも厳しい目を持つ昨今の国民や消費者に評価され、
国や企業のイメージ向上、スポンサー効果が
もたらされることにつながるといえるでしょう。
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05

関連メディア情報

スポーツ科学部 竹村瑞穂准教授が
NHK  WORLD-JAPAN 「The Promise and Challenges of  Sports Genetics」
(スポーツ遺伝子学の約束と挑戦)に出演しています。
下記リンクからご覧ください。
(視聴可能期間:2022年9月18日まで)
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